『ななつのこ』~心に染みるミステリ~
 〈騙される快感〉を味わいたくて、たくさんの本格ミステリを読んできました。
『十角館の殺人』 『殺戮にいたる病』 『頼子のために』 『ある閉ざされた雪の山荘で』
 
『i -鏡に消えた殺人者-』 『黒猫の三角』 『葉桜の季節に君を想うということ』、etc…。
 その驚嘆のラストに呆然とし、作者の緻密な計算と底意地の悪さに感服したものです。
 伏線は充分に張られて、目の前に大胆にヒントがぶらさがっていたのにもかかわらず、
明かされた真相は想像の外にあり、描いていた世界は突如捩れて反転してしまいます。
 〈論理性〉と〈意外性〉の二重奏。思考の盲点を衝く痛快な発想。作者と読者の頭脳戦。
 それこそがミステリの真髄でしょう。
 
 ただ欲を言えば、本格ミステリの多くは、トリックや怪奇性ばかりに傾いて、あまりにも
荒唐無稽になっていたり、その世界観に馴染めず登場人物にも感情移入できなかったり、
文章自体が読むに耐えないものすらあったりします。
 さらに、ミステリはどうしても〈殺人事件の犯人を暴く〉というストーリーが多いため、怨み
や憎しみといった人間の〈悪意〉が描かれる話になりがちです。
 例えば、〈愛して信じていた恋人が真犯人!〉だったりすると、意外性は充分な代わりに
後味はなんとも苦くなります。じつは最初から計画として近づいていただけで、愛どころか
ずっと憎んでいた…なんて告白され、しかも最後に自殺なんてされた日にはもう最悪です。
 読者への裏切りと、読後感の苦さは裏腹だったりします。

 そう思っていたある時、村瀬継弥さんの
『藤田先生シリーズ』を読みました。
 ある小学校に手品の得意な先生がいて、ときどき魔法のように不思議な現象を起こして
生徒たちを驚かします。そして、その魔法には先生からの暖かいメッセージが込められて
あり、それによって生徒たちが救われたりする…といったお話です。
 その先生の手品の種を解明する…というミステリなのですが、トリック自体は奇術の好き
な人なら想像のつくものだったりもします。文章も少し拙い感じがします。(ごめんなさい)
けれど、その世界や人間を〈善〉と捉えたメルヘンな物語は非常に心地のよいものでした。
 村瀬継弥さんの作品を読んで、〈読者を欺き、裏切る〉…それこそがミステリの魅力だと
思っていた僕は、〈読者を暖かい気持ちにするミステリ〉もありだな…と考えを改めました。

  そして同じ頃に、加納朋子さんの『ななつのこ』に出逢ったのです。

 『ななつのこ』は、入江駒子という短大生が、表紙の絵に惹かれ
「ななつのこ」という本を手にしたことから始まる物語です。
 駒子は、作者にファンレターを書きました。
 その手紙には、最近彼女の身の回りで起こった少し不思議な事件
についても書いていたのですが、ファンレターの返事には、その事件
の謎解きがされていたのです!
 そうした手紙のやりとりが主軸となったお話で、全部で7話からなる
連作短編集なのですが、作品の中の「ななつのこ」にもミステリ要素
があり毎回謎解きがあるという趣向のため、まさに謎解き満載の作品
になっています。さらに最終話では、全編にわたる最大のミステリも明かされて、1つの長編
ミステリとしても楽しめます。
 1つ1つの謎の解答は、勘のいい方ならあるいは気付くかもしれませんが、そんなことでは
この作品の価値は下がりません。
 駒子の日常を描いたその作品世界自体が、存分に魅力的なのです。
 ミステリとメルヘンの美しい融合がここにあります。


 続編となる『魔法飛行』は、4つの中篇による作品ですが、さらに完成度が増した印象を受けます。
 こちらも絶対必読ですよ。タイトルもいいですね。
 まさに心に染みる素敵なお話です。
 
 さらに続編の『スペース』が遂に出ました!
 こちらも心温まる良作です。ただし、前2作を先に読まれた方がよいでしょう。


 駒子シリーズ以外では、〔エッグ・スタンド〕というバーを舞台にした『掌の中の小鳥』も好きです。
 こちらも連作短編集になっています。

 日本推理作家協会賞を受賞した『ガラスの麒麟』も非常にすばらしい作品です。
 ここでは遂に殺人事件が起きるのですが、6つの切なくも美しい物語が1つに繋がるそのラストでは、胸に静かな感動が訪れることでしょう。

  加納朋子さんの作品は、ミステリとしても良質な…本格推理小説です。
  そしてその読後感は、驚きとともに、柔らかな光と爽やかな風に包まれたようです。




 
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by seikiabe | 2005-02-19 00:00 | レビュー


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