じつは僕は、〈ミステリ・ファン〉である前に〈SFファン〉だったりします。
ポー、ドイル、ルブラン、クイーン、カー、クリスティー、チェスタートンと共に、 ウェルズ、ブラッドベリ、アシモフ、クラーク、ハインラインなどで育ちました。 アイザック・アシモフの『われはロボット』も大好きです。 まさに古き良きSFここにあり、ですね。 ミステリ的な謎解き要素のあるお話や、ロボットと人間との友情や愛情を描いた感動作もある傑作短編集です。 ところが、映画化された『アイ,ロボット』を観てがっかりしました。 原作の静かで美しい雰囲気、そして哲学的要素は完全消滅して、単なるハリウッド的アクション映画になってしまっていたからです。 ストーリーは『鋼鉄都市』のシリーズなどからも流用されてるようですが、どれともかけ離れているし、あまりにも単純です。 あれならば『I,ROBOT』の名前を名乗る必要などなかったでしょう。 監督はアシモフの大ファンだというのですが、「どこがだよ~」って感じです。 原作(姉妹作『ロボットの時代』の方かもしれませんが)には〔1000台の中に1台だけ自我を持つロボットが紛れていて、それを見つけ出す〕というすばらしい設定のお話があって、どういうテストをすれば自我の有無を見分けられるか…試行錯誤し様々な試みをしていく中で、はたして自我とはいったい何なのか?!…という深遠なテーマに迫っています。 ところが映画では、これに似たエピソードを〔銃で撃って、逃げたやつが犯人〕的な、まったくもって知性のカケラもない方法で一瞬で解決?してしまうってんですから~‥‥。残念ッ!! 『バイセンテニアル・マン』を映画化した『アンドリューNDR114』の方が、まだずっとよかったです! えー、少し感情に流されてしまいました。 とにかく僕はSFを愛しています。 ミステリの前はSFを書いていたのですが、SFになるとどうしても哲学というかエンターテインメントではない方向に突っ走ってしまいがちだったため、もっと広く誰にでも読んでもらえるものをと思っていたら、〈新本格ミステリ〉にはまってしまって現在に至る…というわけなのです。 といったわけで、〈本格ミステリ〉に〈SFテイスト〉を採り入れる…という野心的な試みをされてきた 西澤保彦さんの作品群には、すっかり魅了されてしまいました。 SFとしてはべりー・ライトで、『ドラえもん』的なギミックを軸にした〈SFチック・ミステリ〉です。 と言っても、バカにしているわけではありません。『ドラえもん』は本当にすばらしいSF作品です。 幼稚園児にも〈多次元〉や〈タイム・パラドックス〉といった概念を平易に伝えたり、〈どこでもドア〉や〈タイムふろしき〉に代表されるような至高のガジェットをいくつも産み出してきたんですから。 〈暗記パン〉に〈自信ヘルメット〉に〈ほんやくコンニャク〉、さらには〈もしもボックス〉などの、けっしてありえないけれど魅惑的な道具たちを、欲しいと切に願う時がある大人は僕以外にも多いはず。 藤子・F・不二雄さんは、まさに大天才です。僕の〈心の師〉の1人であります。 『未来ドロボウ』や『パラレル同窓会』などの、SF短編マンガの大傑作もたくさん描かれています。 またちょっと脱線しましたが、とにかく西澤さんのSFチック・ミステリはおもしろいですよ。 ライトでコミカルで読みやすく、けれど「読者を騙そう」(あくまでフェアに)…という〈ミステリ精神〉に溢れた素敵な作品を数多く書かれています。 そしてそのお話は、設定だけですでに興味を惹かれるものばかりです。 まずは『七回死んだ男』という作品です。かなり笑わせてもらいました。 設定はこうです。主人公であるキュータローは特異体質の持ち主です。 それは、ときどき〈時間反復落とし穴〉にはまってしまい、何度も同じ1日を繰り返してしまうというものです。 本人はようやく慣れつつもあったのですが、今回〈落とし穴〉によって反復された1日は、〈殺人事件〉が起こる日だったのです! その被害者はキュータローのお祖父さん。〈落とし穴〉にはまっていることに気づいたキュータローは、それならば…と、事件を防ごうと行動します。そして見事に犯人と思われる人物を捜し出し、その人物を犯行時刻には被害者から遠ざけることに成功しました。 だがしかし! なぜかお祖父さんは、別の何者かによって殺されてしまうのです。 ならば今度こそは…と、次の反復では犯行を未然に防ごうと奮闘とするもやはりまたしても!…といったストーリーです。結局〔七回死んだ男〕を、最終的に護りきることはできるのでしょうか?! ラストには、とびっきりのオチが待っています。 続いては『人格転移の殺人』です。奇想天外なこの作品、大好きです。 設定はこうです。大地震に巻き込まれた主人公たちが意識を取り戻したのは、とある奇妙な実験施設でした。 そして、そこに逃げ込んだ男女6名の人格は、なぜだか〈スライド〉して、みんな別の肉体の中に入っていたのです! ある一定の法則によって、繰り返されていく〈人格転移〉。その閉ざされた特殊な空間で、恐怖の〈連続殺人〉が始まったとしたらもう大変! なんせ人格がどんどんと〈スライド〉していくわけですから、外見だけでは誰が誰だか判らないんです。 今この瞬間、いったい誰が犯人で、誰を信じればいいのやら大混乱です。真犯人を突き止めた…と思ってもまたまた〈転移〉。もう頭の中、完全にシェイクされちゃいます。 結局、誰の〈人格〉が真犯人か?…というお話なのですが、もちろん一筋縄ではいきません。 そしてその意外な結末とは…? 他には、突然現れた虹色の壁に触れると自分と完全に同じ〈コピー人間〉ができ、しかもコピーの方も人格を持っているし、オリジナルとの区別さえ極めて困難…という状況下での連続殺人事件を描いた『複製症候群』。 〔何か疑問を抱くと、自分ともう1人を除き、全ての時間が停止してしまう〕という特異体質の少年が、ナイフが刺さった男を発見してしまい、その謎を解明するまでは永久に時間が停まったまま…という世界の中で、さらに次々とナイフに刺された人たちと遭遇してしまい、謎は深まるばかり…という『ナイフが町に降ってくる』。 さらに、〔ちょーもんいん(超能力者問題秘密対策委員会出張相談所)〕の神麻嗣子の登場する『超能力事件簿』のシリーズは、超能力が存在する世界で、その不正使用を行った犯人は誰なのか?…をあくまで本格推理で丹念に解いていくお話です。 それにしても、よくも次から次へとまあ…って感じですよね。 これらの設定のどれかに興味を持たれた方は、西澤保彦さんのお名前をぜひご記憶を。 ちなみに、正統派ミステリの傑作もたくさん書かれているので念のため。
by seikiabe
| 2005-02-10 00:00
| レビュー
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