『雪を待つ八月』と『あの空をおぼえてる』
一撃でやられる時があります……。
本当にいい作品は、最初の1ページを読んだだけで、物語の世界にグイと引きずり込む力を持っているものです。『いま、会いにゆきます』や『博士の愛した数式』などは、冒頭の数行を読んだだけで迷いなく買うことができました。
自分の〈肌に合う〉作品だということが確信できたからです。
僕は〈平易な文〉が美しい文章だと思っています。やたらに凝った言い回しをしたり、妙に気取った装飾過多な文章、いわゆる〈美文〉は好きではありません。
日常的な語句だけを用いて読みやすく、それでいて内容や空気感が的確に伝わってくる…そんな文章が、本当の名文だと思っています。
〈機能美〉こそが真の美である…と信じているのです。
ありふれた言葉なのに新鮮な使い方をしているあたりにセンスを感じます。

狗飼恭子さんもそんな1人です。
そして『雪を待つ八月』の最初の数行には、本当にうなりました。

  約束をして下さい。
  「もしもいつか私以外の誰かを好きになったなら、そのときは、一番最初に私に言ってね」

〈恋する女の子〉の不安な気持ちを、真っ芯で捉えたような会心の一文だと思いました。
レジに直行です。

これは失恋の物語です。
優美は、年下の雪道という男の子と、2年あまり同棲していました。
「大丈夫だよ。俺は、他の誰かのことなんか好きにならない」
そう強く言ってくれた雪道。
しかし優美は、幸せすぎる毎日の中で、ずっと不安を抱いていました。
そして、ある晴れた夏の日。
雪道は「他に好きな人ができた」と優美に告げます。
彼は約束を守ったのでした…。
他に行くあてもない雪道に、優美は1ヶ月間、一緒に住むことを許します。

別れが決まった上で、まだ愛している人と共に暮らす。その優美の心の苦しみも知らず、
「……優美さんって、本当に優しいんだな」と笑う彼。
「〈優しい〉って言葉の意味も分からないくらい、君はまだ子供だったんだね」と思う優美。
こんなに近くにいるのに、遠く離れてしまった2人の心。
刻一刻と近付く別れの日。優美はどうしてもその現実を受け止めきれません。
そして彼女は、八月に雪が降るような奇跡を願う…という物語です。
とっても切ないお話ですね。女の人ならほとんどの人が共感できると思います。
男もこの作品を読んで、少しは女の子の繊細な気持ちを理解するように努力しましょう。


『あの空をおぼえてる』にも一発でやられました。

  ウェニーへ。
  ぼくも死んだんだ。二人がトラックにひかれたときじゃなくて、そのすぐあと、病院で。

ウィルは、空を飛び回ったあとで、ウェストフォール先生の電気ショックで地上に戻ってきました。
そして、今もまだ空で遊んだままでいる幼い妹ウェニーに宛てて、手紙を書き始めるのでした。
妹はとても明るくて、誰からも愛されていました。
目に光を失い心に穴が開いたような両親。
ウィルは、〈妹を殺したのはぼくだ〉、〈ぼくの方が死ねばよかったのに〉と思い込みます。
1人が欠けて、バランスを失って壊れ始める家族。
ウィルは、もう一度みんなに笑顔が戻ってほしいと願います。
〈みんなが家族でいられるように〉、そのために自分が生き返ったんだと信じるウィル。
ウィル自身が、その小さな身体には重すぎる苦しみを背負いながら、それでも家族のことを思って懸命にがんばる姿に、胸を打たれます。暖かいラストには涙が滲みました。
〈妹への秘密の手紙〉というスタイルにしたのがすばらしいですね。
愛する妹に心配を懸けまいとして、元気を出して綴った文章……それがほほえましく、切ないです。

どちらの作品も、僕の分類では〈メルヘン〉です。
そしてどちらも、1人称の文章が巧みで、自然に感情移入してしまいます。
こういった作品が、今の僕の目標です。



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by seikiabe | 2005-02-12 00:00 | レビュー


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