カテゴリ:マスカットフレーバー( 1 )
マスカットフレーバー 第1話・前編
マスカットフレーバー


1杯目・『6月の雨はバラの香りをつれて』(仮題) 前編

 6月。イギリスでは、ちょうどバラの季節。
 しかしながら、ここは東京。梅雨の日々だ。
私は、ペダルをこぐ脚にさらに力を込めた。時間の余裕はあったけれど、空のグレーが
濃くなってきている。でも、あの踏切を越えればすぐだ。これならセーフ、と思ったら‥‥。
 
 ようやく店に着いた時には、服のままシャワーを浴びたようなありさまだった。
 扉を開けて、店内に入る。その瞬間に空気が変わる。私は息を吹き返した。
 旧い樫のテーブルにウィンザー風のイス。壁には素朴な風景画。少し寂しげなピアノ曲。
そして白や黄やピンクのバラたちの彩り。
 ここが今日からの私の居場所。英国風紅茶専門喫茶《マスカットフレーバー》である。
 紅茶とケーキに目がない私はここに通いつめていた。そして、ウェイトレスの真奈さんが
結婚を機に辞めたため、そのアトガマを努めることになったのだった。もちろん、喜んで…。
私は結婚しても辞めるつもりなどない。というよりも、私が結婚したいのは‥‥。
「おはよう、エリちゃん。初日から雨だね」
 そう言ってマスターが、大きなタオルと笑顔をくれた。
「おはようございまーす。すいません。傘もレインコートも‥‥ちょっと苦手なんですよ」
 私はワサワサと髪をふきながら言った。
「へえ、そうなんだ。どうして?」
「なんだか世界からはぐれちゃった感じがして……。街の音とかもよく聞こえなくなるし」
 それにしてもこのタオル、なんでこんなにもフカフカなんだろう。
「とりあえず、これ。どうぞ」
 と、マスターがカップに入れた紅茶を出した。
「いいんですか? ありがとうございます」
「うん、暖まったほうがいい。で‥‥もちろん判るよね?」
 もしかしてテストのつもりだろうか。しかし、これは飲むまでもなく判る。
「芳醇なバラの香り。鮮やかな紅色。そして、見事なゴールデンリング。ウヴァですね!
ハイランズの、BOP…でしょうか? カップはウェッジウッドですね」
 マスターが微笑みながらうなずいた。
 私は一口飲んだだけで陶然としてしまった。心は遙かスコットランドのバラ園へと飛ぶ。
「エリちゃんも知っての通り、ここは忙しいような店じゃない。気楽にしてくれていいけれど、
ぜひとも守ってもらいたいことがある」             
 私は慌ててバラ園から帰還してきて、マスターを見つめた。
「はい。なんでしょうか?」
「紅茶の味と香りが、うちの商品だ。これは絶対にそこねないこと。淹れ方はじっくり教えて
いくからさ。それと、タバコはもちろんだけど、香水なんかしないよね?」
「ええ、しないですね」
「OK。君がとても誠実で気配りがあるのは解ってるつもりだよ。よろしく頼むね」
 マスターが右手を突き出した。私はそれを両手でギュッと握り返した。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いしまーす!」

 その時、扉が開いて1人のお客さんが入ってきた。
 細身で背が高くてちょっとカッコイイ感じの人だ。
「いらっしゃいませー! お好きな所へどうぞー」
 そのお客さんは、ぐるりと店内を見回すと隅のテーブルについた。
 常連さんなら私もほとんど知っているが、記憶にはない顔だった。学生風に見える。
 私がメニューとお水を置こうと思ったら、その前に声がした。クールな感じの声だ。
「すいません。ホット1つもらえますか?」
 残念ながら看板を見ないで入ってきたらしい。私は精一杯の笑顔で応えた。
「もうしわけございません。当店は〈紅茶専門店〉ですが、よろしいですか?」
「あ…ああ。そうなんだ」
 と、ようやくメニューを開いて、それに目を走らせる。
「ごめんなさい。それじゃあ、ホット・ミルクティーで」
「アッサム…でよろしいですか?」
「そう‥‥ですね。いや、ちょ…ちょっと待って」
「…はい?」
「えーと、この《マスカットフレーバー:¥1480》ていうのも紅茶なの?」
「ええ。スタインタール・ダージリンのセカンドフラッシュのSFTGFOP1です。ちなみに当店
の名前と同じなんですよ」
 私がそう言うと、お客さんはメニューを閉じて表紙を見た。
「本当だ。お店の名前なんですね。てことは、特別なんですよね? この値段からしても」
 私は深くうなずいて答えた。
「できれば、一度は飲んでみるべきだと思いますけど。6月の楽しみといったらこれですよ。
夏摘みダージリンの最高級特別品。味は保証します。絶対に後悔はさせませんよぉ」
「そうですか。じゃ、それをお願いしますよ。せっかくの機会だし」
「ありがとうございます。マスター、エクセレント・ワンお願いしまーす!」

 ロイヤル・ドルトンのカップを満たすオレンジ色。
 至高の一杯を口にした人が目を閉じる。その端整な横顔を見つめている私。
「‥‥いかがですか?」
「うーん‥‥なるほど。フルーティーな香りだ。これがマスカットフレーバーですね?」
「そうなんですよ。どうです、ストレートでいけるでしょ?」
「ええ。もったいなくて、砂糖やミルクは入れられないですね。こいつは、まいったなあ。
うーん、今日から紅茶党になるかなあ」
 私もつられて笑顔になった。
「ありがとうございます。じつはここのバイト、今日が初日なんですよ。それで、最初の
お客様だったんですけど、いい人でよかったあ…って感じです」
「そうなんだ。こちらこそ、いい経験になりましたよ。紅茶がこんなに美味しいなんて…。
30年も人間やってても、まだまだ学ぶことはありますね」
「お客さんって30才なんですか? てっきり大学生くらいかと……」
「それって喜んでいいのかなあ。で、君はいくつなの?」
「もうすぐ19です」
 それから私たちは互いに自己紹介をした。

「へーえ。新堂さんって、作家の先生なんですかぁ」
「いえ……ま、一応。それにしても、鮮烈な香りだなあ」
 そう言って、少し照れたようにカップを口に運ぶ。
《新堂亜紋:日本推理作家協会会員》
もらった名刺にはそう記されていた。しんどうあもん、と読むらしい。
「これってペンネームですよね?」
「うん。先輩の作家につけてもらったんだよ。〈アモン〉って悪魔がいるらしいんだ」
「悪魔…ですか。どうりでヘンテコな……いえ、あの‥ごめんなさいっ」
「ハハハ、いいよいいよ。自分でもそう思ってるから」
 そう言って微笑む新堂さんは、私が小説家というものに抱いていたイメージとは違って
ぜんぜん気難しそうでもなく、穏やかで爽やかな感じの人だった。
「‥‥ところで、エリちゃんは…ミステリ小説って読んだりする?」
「いえ、ぜんぜん。ごめんなさい」
 私が正直にそう答えたら、新堂さんはちょっと寂しそうな顔になった。
「そっかぁ‥‥。ま、そうだよね」
「えっと、そのぉ‥‥恐いのとか苦手だから、あの……」
「…? 〈ミステリ〉だよ。恐くないでしょ。〈ホラー〉と混同してる?」
「いえ、ジャンルとか、よく判らないですけど。血とか殺人事件とかもうダメだから…」
「ハハハ、案外かわいらしいんだね。でもそれじゃ、新堂の作品なんかアウトだろうなあ」
「人‥‥死にます?」
「ええ、たくさんね。首なしだったり、バラバラだったりもするかな」
「だったら‥‥ペケです」
「そっかぁ。残念だなあ。でも、他の人の作品なら殺人のないミステリってのもいっぱい
あるんだよ」
「誘拐事件…とか?」
「ちがうちがう。つまり、犯罪なんか出てこなくてもいいってこと」
「‥‥‥‥?」
 ピンときていない私に、新堂さんは優しそうな笑顔で続けた。
「えっとね……ミステリってのは、《謎を解く物語》のことなんだ。だからね、そこに何か
〈不思議〉なことがあって、誰かがそれを〈推理〉し、合理的な〈答え〉を出せば、そいつ
がミステリってことさ」
「はあ‥‥なるほど」
「この宇宙は一体どうやって…そして、なぜ生まれたんだろうか? そんな最高の謎を
解く科学者や哲学者の理論なんて、最も優れたミステリの1つだよ」
「へえ、そういうもんなんですか」
「それに、〈不思議〉なこととかって、いくらでもあるでしょ?」
「へ? まあ‥‥そうですかねえ」
「ああ。〈謎〉は、どこにだって転がってる」
 そう言って新堂さんが、店の入り口の方に視線をずらした。

「例えばさ、今この店に入ってくる……あの男の人」
 言われて私も振り返る。サラリーマン風の男の人が、ちょうど入ってきたところだった。
濡れた傘をたたんで、傘立てに入れている。
「あ、いらっしゃいませ! お好きなところへー」
 名前は知らないけど、この店で何度か見かけたことがある人だった。
 奥のテーブル席に着いたその人がこちらを見た。私は急いでメニューを持っていった。 
 スーツ姿。メガネをかけている。40才くらい? 別に〈不思議〉なところなんてない。
「えーと、ニルギリを。キャンブリックでお願い」
「は…はい。かしこまりました」

 注文の品を持っていた時にもこっそり観察したけれど、特におかしなところなんてない。
 私は首をかしげながら、新堂さんのところへ戻った。
「どうだい、ちょっとだけ〈不思議〉だろ?」
 そう言われても私には解らない。
「別に普通の人でしたよ。〈謎〉なんてないんですけど」
「そっか‥‥そうだよね。だったら、もう忘れちゃって」
 なんて言われると、よけい気になるでしょ、もう。
「くださいよ‥‥ヒント」
「うーん……ていうか、彼自身がヒントなんだけどな」
「それじゃ解んないんですよ。自慢じゃないけど、カンとかめちゃくちゃ鈍くって」
「そうだなあ。じゃあ例えば彼のスーツに注目する…とか」
「スーツ? 普通だと思ったけど…。ブランドもの?」
「だったら髪はどうなってた?」
「えー、ちょっと変な髪形っていうか、かなり薄くなってきてますけど……」
「そういうことじゃなくって……。ああ、もう大ヒントだからね。ひょっとして、彼って濡れて
なかった?」
「え? そりゃあ濡れてるでしょ、だって雨降ってるんだから。えッ、もしかして?!」
 あわてて窓から外を見たけど、やはり雨は止んではいなかった。
「なんだぁ、ちゃんと降ってますよ。なら濡れて当然…」
 ここで私は、ようやくあることに気がついた。
「‥あッ! そうかぁ!!」
 入り口を見る。やっぱりだ! 傘立てには傘が1本しかない。
 つまり、今のお客さんだけが、傘を持っていたということだ。
 マスターは2階に住んでいる。私は傘を持たずにきて濡れた。
「新堂さん‥‥あなたッ!?」
 微笑みを浮かべるその人物は、確かに傘を持っていなかった。それなのに!
「どうして、少しも濡れてないんですかッ?!」
「その通り。正解だよ、エリちゃん」
 言われてみると、確かに〈謎〉だった。
 そしてそれは、最初っから目の前にあったのだ。
「残念ながら…これは作ったパズルじゃないんで、答を知ったらバカバカしいことなんだ。
それでも、エリちゃんの側から見たら、ちょっとだけ〈不思議〉でしょ?」
本当に不思議だったので、私はこの〈パズル〉を解きたくなった。
 単純な問題だから、しっかりと考えれば解けるはずだ。

 その時、新堂さんがポケットからタバコの箱を取り出した。緑色の箱。
「あ、もうしわけありません。このお店、禁煙なんですよ…」
 箱を開けようとした手が止まって、新堂さんは苦笑した顔を向けた。
「そっか‥そだよね。ごめんなさい。タバコの臭いなんかしたら、マスカットフレーバーも
台無しだもんね」
「はい、どうもすいません」
「じゃ、こいつは‥もう、こうしちゃおう!」
 そう言ったかと思ったら新堂さんは、タバコを突然バクリと口の中に入れてしまった。
しかも箱ごとだ。
「ちょ‥ちょっと待って‥」
 けれど新堂さんはモグモグと口を動かしゴキュッと飲み込んでしまった。
「‥‥ゲ、まっず~い。やっぱタバコは身体に悪いよね」
「えー?! どうして食べちゃったの? 絶対おなか壊しちゃいますよ」
「そだよね。じゃあ、やっぱりやめとこう」
 そう言うと手を口に当てて吐き出す仕草をしたと思ったら、広げた手にはタバコの箱が
また元通りに戻っていた。箱はまったく潰れてもいない。

「ミステリってのは、手品とよく似ている。どちらも〈不思議〉を楽しむ遊びだよね。それは
〈人を騙す芸術〉…と言ってもいいかなあ。思考の盲点を衝くってことだね」
「すごいですね~。でもちょっと意地が悪いかも」
「ハハ、ごめんね。驚いた?」
「あー、もしかして……濡れずに来れたのも手品?」
「それは違うって。ただの偶然だよ」
「そんなことってあるかな~。もしかして騙してます?」
「騙すってどういう風にさ?」
「たとえば、折りたたみの傘を持ってるとか…」
「持ってないよ、どんな傘も…レインコートだってね」
「そっかぁ! なら、お店の前で捨ててきたんでしょ?」
「まさか。なんのためにそんなことするの?」
「だから…騙すために」
「そんなわけないでしょ。これはマジックでもミステリでもなくって、単なる偶然なんだよ。
結果的にそうなった…ってだけのこと。いや、ある意味では必然なんだけども」
「どういうこと? 〈計画的犯行〉じゃないんですか?」
「だーから、違うってば。たまたまこうなっただけなの」
「店の前のおじぞうさんに、傘をあげちゃった…とか?」
「それちょっと面白いけど、おじぞうさんなんて近くにあるの?」
「ないですよ。だけどたとえば、雨に濡れてる女の子がいて、その子にあげちゃったとか
だったら…」
「なるほどね。でも違うな。傘は〔最初から〕持ってなかったんだ」
「もし〈正解〉だったら、正直にそう言ってくださいよ」
「ああ。当たったらちゃんと言うから」
「意外な答えなんですよね?」
「いや、ぜんぜん意外じゃないけど」
「ええーッ!? いまさらそんなぁ…」
「そう言われても困るなぁ。答えは単純でバカらしいことだと言ったでしょ。もし聞いたら
怒るかも」
「ま…まさか、車で来ただけ、とか!?」
「さすがにそこまでは……。歩きだよ。免許も持ってないし。車だって駐まってないだろ」
「あっちのヤネからこっちのヒサシ…ずーっと軒下づたいに濡れないように渡り歩いた」
「そんなことできると思う?」
「それなら、超高速で雨より速く駆け抜けた」
「なにそれ。いくら速くてもやっぱり濡れるでしょ。それに歩いたって言ってるのに」
「となると、〔傘は〕持ってない…てゆーのが鍵ですか? 傘じゃない何か…てことですね」
「うーん‥‥。パズルを解く時は、もっと発想を転換しなくちゃ」
「発想の‥転換?」
「ああ。そうだね、例えばこんな有名なパズルがあるよね。
  『マッチ棒が3本で正三角形が1つできます。同じものをもう3つ作るには、
  マッチはあと何本必要でしょう?』
…て聞いたことあるでしょ?」
「知りませんよ。なにそれ? もう3つ、だから……あと9本、じゃないんですか?」
「あのねー、エリちゃん。そっから始めないでよ‥‥」
  
 店にはマッチがなかったので、新堂さんからタバコを借りた。
 まずは、テーブルの上に、3本のタバコで三角形を作る。
 そしてもう1本のタバコを持った私は、さすがに気がついた。
「そっか。この三角形を使わなくちゃだ」
「そゆこと」
 最初の三角形の辺にくっつけて作れば、2つ目は2本で足りる。当たり前のことだ。
 あと2本でまた1つ。さらに2本でもう1つ。……結局、最初の三角形を囲むように
もう3つの三角形ができた。そして、全体もまた大きな逆三角形だ。
「できました! えーと、全部で‥‥9本。だから‥‥答えは、〔あと6本〕ですね!」
「そうそう。そこが〈スタート〉ね」
「へ‥? まだスタートなの?! もしかして、もっと小さい三角形とか逆に大きいのを
作らなきゃ…てことですか?」
「違うよ。あくまでも〈同じもの〉だから。タバコ1本を1辺とした正三角形だよ」
「そんなあ‥‥」

 私はさらにタバコを色々と移動してみたが、1本も減らすことはできない。
「重ねてもいいんでしょ? てゆーか重ねるしかないですよね?」
「さあ、どうだろ。重ねるのはもちろんいいけど」
「う~ん。答えは、〔あと5本〕‥ですよね? さすがに、〔あと4本〕じゃダメでしょ?」
「いいや‥‥〔あと3本〕だよ。全部で6本」
「えぇ!? それはムリ! 〔3本で1つ〕なんでしょ。なのに、〔6本で4つ〕なんてッ?!」
「だからパズルなんだよ。頭をやわらかくしなくちゃ」
 私は考えられる限りあちこちタバコを動かしたが、どうにも進展がなかった。

「ダメですぅ‥‥ギブアップ」
「そっか。ま、答えを教えるよ。このパズルは、まさに基本なんだよね」
 テーブルの上には、3本のタバコの正三角形。そこに、あと3本‥‥。
「2次元でダメなら、3次元」
 そう言って新堂さんは、3本のタバコを最初の三角形の角に1本づつ立てた。そして
その立てた3本の先端を空中で1つに合わせた。するとピラミッドのような形になった。
「そっか、なるほどぉ。平面じゃなくて、立体で作るんですね」
「正四面体だね。文字通り、正三角形が4つ。そして、辺は6つだ」
 私は唸るしかなかった。〔きれいな〕答えだと思った。
「これが、パズル‥‥。発想の転換ってやつですね?」
「そう。こいつが基本だね。さあ、これをさっきの〈雨と傘のパズル〉に置き換えると?」
「へ…?」
 私はようやく思い出した。このパズル自体が、さっきの問題のヒントだったことを。
「えーと、2次元から3次元‥‥そうか、解ったぁ!!」
 私は思わず叫んだ。
「3次元…つまり、新堂さんは2階から1階へ歩いてきたんです。だから傘はいらない。
あなたは昨夜、マスターのところに泊まったんだ!!」

「ハハハハハ……。なるほどね」
「やったーッ!! 正解ですね?」
「‥‥‥‥残念。大ハズレ」
「えー、どうしてぇ?! ちゃんと転換したでしょ?」
「うん。でも、このお店に来たのは初めてだし、マスターと面識もないよ」
「そっかぁ‥‥。いい考えだと思ったんですけど…」
「おしいけどね。考え方はあってるから、それをもっと進めてごらん」
「もっと…てことは、3階はないから…空から、え? 空からって、スカイダイビング!?」
「こらこらッ! パラシュートが傘の代わりだっての?! 歩きだって言ってるでしょ」
「はぁ‥‥‥‥。もうギブアップしようかな」
 すると新堂さんが、するりと話題を変えた。

「……ところで、この店のマスターって…今カウンターにいる人?」
「あ、そうですそうです。呼んできましょうか?」
「ん~、らしくないよね。あの人、〈マスター〉っていうより…〈モデル〉って感じだね」
「でしょでしょ! でもルックスだけじゃなくてすごく頭もいいし優しいしスポーツだって…」
「へえ。いくつなの?」
「32才です。あ、でも来月の25日で33才ですね。獅子座のA型、鹿児島県出身ですよ」
「ふ~ん‥‥だからか」
「へ? なにがですか?」
「だからさ、エリちゃんはマスターのことが好きで、このお店でバイトを始めた…てこと」
「ふえぇ!? な、なに言っちゃってんですかぁ!? そそ…そんなわけ……」
「推理の必要すらない。バレバレだね」
「チ、ちがいますよぉ。ヤだなぁ……そ、そうだ! マスターって、すごく頭いいんですよ」
「それはもう聞いたけど」
「じゃ…じゃなくって、マスターだったらきっと解けますから、さっきのパズル!」
 私は新堂さんから逃げるようにして、カウンターへ向かった。


TO BE CONTINUED

[PR]
by seikiabe | 2004-10-18 19:36 | マスカットフレーバー | Comments(11)